Column

矯正歯科の女医さん

2023.07.26

国が1999年に男女共同参画社会を目指すと宣言してからもう四半世紀が経ちました。実は、矯正歯科医として単科開業している女医さんの割合は非常に少なく、矯正歯科の業界も圧倒的に男社会です。私は33年間勤務した東北大学時代に矯正歯科の卒後教育で多くの女医さんの教育に関わりましたが、その後、矯正歯科専門で開業したり、基幹病院の勤務医になったり、大学で教育者になるなど、第一線で仕事を続けている女医さんはほんのひと握りです。
国が多額の予算を使って歯科医を養成したにも関わらず、女医さんの社会への貢献度が低いレベルにとどまっている現状は、実にもったいない話です。

そのような状況を生みだしている理由ははっきりしていて、一言でいえば女医さんが大きなハンディキャップを背負っているからに他なりません。6年間の卒前教育を受けて大学を卒業するのが24歳前後で、臨床研修を経て大学院や卒後教育を終えるともう30歳です。その間、あるいはその後に結婚をして、子育てを始めることになると、自分の持ち時間がどんどん減り、経験値を高めるための診療時間や専門性を深めるための勉強時間を見つけることが困難になります。
一般的に、勉強というのは隙間時間だけでは難しく、まとまった時間がないと集中できないし、効率も低下します。また、子どもが熱を出したり、感染症を患ったりすることは、ある意味日常茶飯事ですが、その度に保育園や幼稚園から呼び出されるなど、落ち着いて仕事をすることができません。女医さんにしてみれば、職場に迷惑をかけたくないとの思いで就職を諦めたり、退職することを余儀なくされたりで、自分の専門性を高める機会を失ってしまうことにもなります。

私は、女医さんがハンディキャップを負っている状況を十分に理解した上で、できる範囲で自分のキャリアを積んで、技術や経験を高める機会を提供できればと思っていました。しかし、私は昨年3月まではずっと勤務医であったことからそれが叶いませんでしたが、その後当院を開業することになったことから、その実証実験が可能になりました(笑)
現在、当院には3名の女医さんが非常勤で勤務しています。それぞれ2〜3人の育ち盛りのお子さんがいて家事や教育に大忙しの世代です。女医さん同士で話し合ってシフトを組み、それぞれが勤務できる時間帯で仕事をお願いしています。今はやりの言い方をすれば、人的資源の持続可能性(Sustainability)を目指していることになります。

私のような高齢者なら誰しも知っていることですが、嵐のような子育て時代はあっという間に過ぎ去ってしまいます。長寿社会だけに、その後は夫婦中心の長い人生が延々と続きます。そして、子どもたちにシェアしていた自分の持ち時間が若い頃のように戻ってくることにもなります。子育てという嵐のような時期に少しでもキャリアを積むことによって業界の進歩に遅れをとることもなく、矯正歯科医としての最先端のスキルを提供することとプライベートとをうまく調和させて、その後の長い人生をより充実させることができるのではないでしょうか。
私のただ一つの心配ごとは、この実証実験の成果(女医さんたちの活躍)を、それまで生きながらえて、この目で確かめることができるかどうかですが、多分無理でしょうね(笑)