Column
菅原準二のコラム
術後の長期安定性
2026.01.22
2025年12月21日に矯正歯科長期安定研究会の第3回学術大会で、「長期安定性を高めるために私が日常臨床で心がけてきたこと」と題して招待講演をさせていただきました。再発や後戻りがなく、良好な治療結果が長期にわたって安定していることは矯正歯科の究極の目的です。私が矯正歯科の卒後教育を受け始めて現在に至るまで、長きにわたって研鑽を積んできましたが、あらためて考えてみると、優れた結果をどのように得て、長期安定性をどう保つのかを命題として追い続けた長い旅路だったように思われます。
長期安定性とは言わば氷山の一角のようなものであり、水面下にはそれを支える70〜80%の要件が潜んでおり、それらの中で特に重要なのが以下の4点です。
- 1)第1ポイント「治療ゴール設定」
- 治療ゴールとは建築で言う設計図のようなもので、噛み合わせと口元を最終的にどのような形に整えるかを具体的(視覚的)に示すものです。治療ゴールには審美的要素だけではなく機能的要素も十分に考慮される必要があり、診査・検査で特定された問題点をできるだけ多く解決することが求められます。そして、その治療ゴールがクライアントにとって最適解で近いものであることが望まれます。
- 2)第2ポイント「治療方法」
- 治療ゴールを確実に達成するには、矯正装置で歯を所定の位置まで動かし、場合によっては外科手術によって顎骨の大きさや位置を整える必要があります。治療ゴール達成の予測実現性を高めるためには、多くの矯正装置や顎矯正手術法の中から最も適したものを選択することが求められます。これには矯正歯科医の知識と経験が大いに関係します。
- 3)第3ポイント「治療のタイミング」
- 長期安定性をより確かなものにするためには、顎成長が続く時点での本格治療を避けることです。例えば、中学生で治療を終えた場合、その後の顎成長や智歯の影響によって噛み合わせや歯列に乱れが生じるリスクが高まります。そのため、子どもの矯正治療には、小学生で行う第1期治療と顎成長が終わった後に行う第2期治療(仕上げ治療)に分離した二段階治療が推奨されています。
- 4)第4ポイント「保定」
- 保定とは、矯正治療後の後戻りや再発を防ぎ、新しい歯並びや噛み合わせを安定させるための処置のことです。保定装置には、取り外し可能なものと固定式のものがあります。当院では、上顎前歯と下顎前歯の舌側に特殊なワイヤーを接着固定し、かつ上顎または下顎歯列に取り外し可能なクリアリテーナーを併用することをクライアントに指示しています。新たな歯並びや噛み合わせを確実に安定させるために、いずれの装置も5年間用いていただいています。保定は「第2の矯正治療」とも呼ばれていますが、生涯におよぶ長期安定を得るための重要な工程です。
最後に、歯並びや噛み合わせの生涯におよぶ安定という言葉を口にする一方で、正直なところ、これまで治療を終えたクライアントの生涯を見届けた経験はありません。人間の歯がその場所にとどまっているのは、舌や唇など周囲の筋肉の動的平衡が保たれているからに他なりません。加齢に伴いそのバランスが崩れると歯は動きだすと考えられています。従って、生涯という視点からすれば、治療結果が全く変わらずに維持されるとは限りません。
私の小さな信念として、例え加齢に伴う変化が生じたとしても、クライアントの生活の質を低下させない範囲に留まれるように意識し続けていきたいと思っています(涙)