Column

情報過多とリテラシー

2023.04.25

23年前と著しく異なっていることの一つは、矯正治療に関する情報量の圧倒的な差である。23年前の河北新報の記事では私は情報不足を憂いていたが、その後のインターネットやスマホの急速な発達にともなって、今はむしろ情報の氾濫と過多が問題となっているようにも感じています。加えて、「矯正歯科」という表示は、自由標榜制と称して歯科医師免許を持っていれば誰でも看板やホームページに掲げることができます。
しかし、このような専門の診療科目を表示している歯科医のすべてが適切な診断と治療技術を提供できるとは思えません。また、矯正歯科ではしっかりと卒後教育を受けた専門医(学会の認定医や臨床指導医)の間においてすらコンセンサスが得られておらず、10人の術者がいれば10通りの意見に分かれると言っても過言ではありません。

このような状況の中で玉石混交の膨大な情報が発信されているため、情報を受ける側はたまったものではありません。そして、さらに混乱を招いていることは、矯正歯科ではないにもかかわらず、「セラミック矯正」などと称して歯を360度削ってセラミック冠を被せて歯並びを整えるという治療法すら参入しています。
私に言わせれば、このような治療はもってのほかで、本質的な問題点を解決していないばかりか、健全な歯を削ること自体が歯の寿命を縮めることになるからです。そのよう治療を受けて、満足せずに再治療(矯正治療)を希望するケースが後を絶たないのも気がかりです。

ではクライアントはどうすれば良いのでしょう。対応策は自分のリテラシーを高めることしかありません。リテラシーとはインターネット上などに存在する情報を正しく選択して活用することを意味しています。
平たく言えば、うさん臭い情報に引っ掛らず、真っ当と思われる情報を嗅ぎ分ける能力を身につけることです。

矯正治療は一生の間に何度も受けるような治療ではありません。ましてやそれなりの期間と費用を要することから、治療の決断は慎重に行うべきです。
そのためにはインターネットでクリニックを検索して一カ所で決めるのはとても危険で、セカンドオピニオンやサードオピニオンを求める労をいとわないことです。そして、最終的には最も腑に落ちる丁寧な説明を受けたクリニックで治療を受けることをお勧めします。
そうすれば、必ずそのようなクリニックに出会えるはずです。