Column

サージェリーファースト

2023.05.23

1999年の河北新報連載の内容と大きく変わっている点の一つは、顎変形症の外科的矯正です。外科的矯正とは、例えば下顎が大き過ぎて受け口になっている場合に、下顎のサイズを手術(顎矯正手術)によって縮めるとともに、矯正治療と併せて、顔の形と噛み合わせを整える治療のことを意味します。

当時の外科的矯正と言えば、1990年から健康保険の対象になったことにより、術前矯正→顎矯正手術→術後矯正のステップに従うことが義務付けられていました。健康保険による治療ガイドラインは今でも変わりませんが、それにサージェリーファーストという方法が新たな選択肢として加わりました。

従来の方法においては、術前矯正中に顔貌が悪化する、治療期間が長い(3〜4年)、手術の時期がいつになるか分からないなどが短所となっていました。サージェリーファーストはそれらの問題点を解消するために、私を含む東北大学チームによって考案された顎変形症に対するオリジナルの治療法で、国際的にはSendai Surgery Firstとして知られています。2004年から治療が開始されて以来、これまでに約350症例の治療が完了し、その有効性や長期安定性も確認されています。

サージェリーファーストは、文字通り顎骨の手術を最初に行う方法で、術前矯正は一切行いません。手術直後の噛み合わせが一時的に不安定になるという欠点は避けられないものの、手術直後からRAP (Regional acceleratory phenomenon)やSAP (Systemic acceleratory phenomenon) という生体反応が起こり、歯の移動が加速されることなどによって歯並びや噛み合わせは速やかに改善されます。その結果、治療期間が大幅に短縮される(1年前後)と言う特筆すべき利点があります。また、手術の時期を最初にクライアント自身の都合に合わせて決めることができるなど、他にも様々な利点があります。

サージェリファーストは最新の方法であることから、まだ健康保険の給付対象にはなっていませんが、治療を急ぎたい、あるいは術前矯正を避けたい方にとっては最適の選択肢と言えます。サージェリーファーストの提供は当院の特徴の一つになっています。